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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)1424号 判決

控訴人 大阪相互銀行

理由

一、破産法第七八条第一項は、否認権が行使せられた結果破産財団が当然復元し得べき財産、以上の財産または利益を保有することとなる場合に、これにつき否認の相手方をして財団債権者としての権利を行使せしめ、以て破産財団をして利得せしめず相手方にも必要以上の損失を蒙らしめないよう配慮した趣旨の規定と解せられるから、否認により破産財団において利得する結果とならない本件の場合には、同条項を類推適用するの余地はないものと解するを相当とする。

二、結果的にはともかく、破産者が当初より控訴人主張の如き狡猾な計算、意図の下に自己破産の申立をしたことを確認するに足らないのみならず、控訴人自らも一般債権者を出し抜いて否認せらるべき弁済受領行為をしたものであるから、本件否認権の行使を甘受するほかなく、控訴人主張の諸種の事情を斟酌しても、なおかつ本件否認権の行使をもつて信義則違反または権利濫用であると認めるに足りない。

三、被控訴人は破産者榎本工業株式会社が昭和三九年三月二六日に支払つた金四、九三六、一〇二円は全部支払停止後の債務の弁済(通常のもの)に該当すると主張するけれども、被控訴人の全立証によるも、右事実を認めるに足る証拠なく、むしろ成立に争のない甲第二号証、第八号証の二、三、乙第四号証によれば、破産者は控訴人に対し昭和三九年三月二五日現在において証書貸付債務元利金六、〇九〇、七二〇円を負担していたのみで、そのほかに控訴人よりさきに手形割引を受けた訴外精工技研工業株式会社振出の約束手形三通(額面合計三二〇万円、支払期日同年四月一六日ないし三〇日)があつたところ、同年三月二五日頃控訴人より破産者に対しその買戻を請求した結果、破産者がこれに応ずることにより、右の買戻代金三二〇万円の債務をも負担するに至り、右貸金及び買戻代金合計九、二九〇、七二〇円に対して控訴人の負担する債務四、三五四、六一八円を差引計算した残額四、九三六、一〇二円に対して破産者が本件弁済を為したことが明らかであるから、本件弁済の一部は、前認定の手形買戻代金の支払に該当するものといわねばならない。そして控訴人は右の手形買戻代金の支払は破産法第七三条第一項の類推適用により否認権行使の例外たる手形の支払として否認の対象とならない旨抗弁するので按ずるに、いわゆる手形の買戻は通常手形割引契約より生ずる手形外の権利に基くものであつて、手形法上の権利保全の一環ではない点と、破産法第七三条第一項の例外規定が設けられた趣旨とに徴し、いわゆる手形買戻は原則として右法条の手形の支払に該当しないのは勿論、これに対して同法条を類推適用すべき格別の事由も認め難いから(本件の如き満期前の買戻については猶更である)、本件手形代金の弁済も破産法第七二条の原則に従い否認の対象となし得べく、右控訴人の抗弁は理由がない。

四、《証拠》によれば、本件はボイラー熱管埋設々計施工等を業とする破産者が、相互銀行業務を営む控訴人より融資を受けた金員につきなされた弁済行為が否認せられた事案であることが明らかで、反証なき限り控訴人が右弁済によつて取得した金銭は商行為に利用せられ得べかりしものと認められるから、控訴人は本件否認により被控訴人に返還すべき金四、九三六、一〇二円に対し、右金員受領の翌日である昭和三九年三月二七日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による法定利息を支払うべき義務があるものといわなければならない(大審院昭和八年六月二二日、最高裁昭和三六年一〇月六日、昭和四〇年四月二二日各判決参照)。

そうすると被控訴人の附帯の請求は法定利息として全部認容すべきものと認める。

以上の点を附加するほか、当裁判所が被控訴人の本訴請求を正当と認める理由は原判決理由に示すところと同一であるからこゝにこれを引用する。

よつて原判決を相当として本件控訴は棄却し、被控訴人の附帯控訴による拡張請求は正当として認容……。

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